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山本由伸が語った「前例がなかったこと」 否定されても迷わず自分を信じた理由 - スポニチ Sponichi Annex 野球
「前例がない」。計画や企画を断念する際の理由として挙げられることがある。逆に「前例に倣い」計画や企画を実行に移すケースもあるだろう。その時点で正解、不正解は分からない。「歴史は繰り返す」とよく言うように、前例は人々にとって無視できない存在となっている。
24日に「NIKE HARAJUKU」で行われたトークショーに参加したドジャース・山本由伸が、この「前例」について語っていた。オリックスに入る前、入った当初の山本は140キロを超える速球やスライダーを試合で投げられても、登板後の肩肘の張りに悩まされていたという。様々な医師らに会って話を聞く中で、自身の感覚と合致したのが現在もサポートを受ける矢田修氏だった。都内の中学女子野球軟式チーム「江戸川エンジェルズ」のメンバーを含む約150人の聴衆や会場に入れなかったインターネット配信の視聴者を前に、言葉は熱を帯びた。「“この人だな”っていうのがすごいピンと来た。それも感覚的ではなく、いろいろな説明をしてもらって、自分の今までと照らし合わせて、すごい納得できた」。そう振り返ると「一般的ではなかったけど、確信が持てたので、思い切り踏み込むことができた」と言った。矢田氏は治療だけでなく、今も続けるやり投げトレ、ブリッジ、3点倒立などで体の使い方も指導。どれも“一般的”ではなかった。ただ、ここで山本はプレー以外で思わぬストレスを抱えることになった。矢田氏との取り組みが周囲から「ずっと否定されてきた。“前例”がなかったので、とにかく否定され続けてきた。迷いはなかったけど、すごくストレスはあった」という。ただ、一度決めたことに対してブレることはなかった。「“これ、いいぞ”という手応えが自分の中であった。(周囲が)否定してくることもたくさんあったけど、その人たちはすごい感覚的な否定だった。自分の方がその情報について調べてると思えた」。もちろん「前例」は大切だが、根拠の薄い「前例」に果たしてどれほど意味があるか。自分の体の変化は、自分が一番感じ取っている。だからこそ、周囲の声にストレスを感じながらも、前に進むことができた。もちろん「前例」を否定しているわけではない。山本を始め多くの日本選手がメジャーリーグの舞台で戦っている現状は、村上雅則(元ジャイアンツ)、野茂英雄(元ドジャースなど)らパイオニアの存在があったからだ。偉大な先人たちが大リーグで活躍し、日本選手の価値を高めてきたからこそ、大リーグでプレーするだけでなく、今では米国やドミニカ共和国出身のスター選手に負けない大型契約を日本選手がつかむこともできている。さらに、多くの肘のじん帯再建手術(通称トミー・ジョン手術)の成功例があったからこそ、多くの投手が復活し、ドジャースの大谷も2度の同手術を経て、今も二刀流が継続できている。メジャーリーグ以外では、米国のスタンフォード大に進学し、昨秋にソフトバンクからドラフト1位指名を受けた佐々木も「前例がない」代表格だ。計画や企画を実行に移す上で何が大事なのか。「前例」を目いっぱい参考にしながら、時に「前例」にとらわれず、自分の経験や感覚、学びを通して、思い切った決断を下すことも必要なのかもしれない。山本のこの日の言葉はきっと多くの人々の胸に響いたに違いない。(記者コラム・柳原 直之)