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【内田雅也の追球】心を通わせる「2人野球」 - スポニチ Sponichi Annex 野球
「1人野球」と呼びたい壁当てや屋根上げが一番小さな野球だとすれば、2人でできるキャッチボールは2番目だ。ただ、1人から2人になった途端、団体スポーツとしての特性が顔を出す。つまり、相手と心を通わせる作業になるからだ。
野球を愛した作家・伊集院静の小説『ぼくのボールが君に届けば』(講談社)に、野球をする女の子の名言がある。「キャッチボールをすると、その人のことがよくわかるような気がするの。受け止めた時の感触で、強さや、やさしさや、切なさまでが伝わってくる気がするの」。少年時代、野球に明け暮れた寺山修司は随筆『野球の時代は終わった』(文芸春秋)で書いた。<二人の気持ちがしっくりいったときにはボールは真っすぐに届いた。しかし気持ちがちぐはぐなときにはボールはわきにそれた>。そんなキャッチボールについて、阪神・岩崎優がキャンプイン前に語っている。1月28日、尼崎の施設で来日したばかりの新外国人ダウリ・モレッタとキャッチボールを行った。「向こうが相手を探していて。なんだったら一緒にやるかって」と自ら誘った。やり終えて言った。「ちょうど良かった。心のキャッチボールできました」キャッチボールを心を通わせる作業だと分かっているのだ。クローザー、救援陣のリーダーとしての自覚もあろう。具志川組での練習では日々、キャッチボール相手を替えているそうだ。遊撃を守る新外国人キャム・ディベイニーのキャッチボールの相手は当初、佐藤輝明が務めていた。佐藤輝が侍ジャパン合宿で抜けた後は通訳に次いで、中野拓夢も務めている。二遊間キーストーンコンビは心や呼吸を合わせる必要がある。ドラフト1位の新人・立石正広が宜野座に来た11日には森下翔太が誘ってドーム内でキャッチボールをしていた。同じ大卒1位として重圧や緊張をほぐしてあげようとの思いやりを見てとった。こうした「2人野球」が集まって、チーム力を育んでいく。かつて巨人を9年連続日本一に導いた川上哲治は<いまふり返ってみると、キャッチボールがV9のチームプレーを支えたという思いが強い>と著書『ベースボールのすべて』(文芸春秋)に書いている。阪神が挑んでいる連覇へのカギだと言えるだろう。 =敬称略= (編集委員)