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【内田雅也の追球】歓迎したい内野安打 - スポニチ Sponichi Annex 野球
野球規則を体系化したアレクサンダー・カートライトは1845年、本塁―二塁の距離を「42ペイス」と定めた。古代ローマの単位だ。塁間に直せば、今の90フィート(約27・4メートル)と変わらない。
この距離が絶妙で、古今東西、多くの野球選手や野球記者が「神が定めた距離」と語っている。1960年代に活躍したドジャース黄金の左腕、サンディ・コーファックスは「野球は何一つ変わっちゃいない」と話した。「全く驚きだよ。タイ・カッブの時代と何ら変わりないんだから。いまだに三遊間にゴロが飛べば、俊足のやつならもう一歩届かずアウト、鈍足なやつは二歩も手前でアウトだろ」。トマス・ボスウェルの名著『人生はワールド・シリーズ』(東京書籍)にある。カッブはスピードを争う攻防を楽しんだ。1920年代、ベーブ・ルースの登場で本塁打全盛時代が訪れたが「野球本来の魅力は単打の応酬にある」と譲らなかった。今も似た状況にある。大リーグの「フライボール革命」で本塁打と三振の数は増え、塁間を駆ける勝負はなおざりにされてはいないか。イチローが語る醍醐味(だいごみ)である。そんななか、阪神・近本光司のスピードには昔と変わらぬ魅力がある。過去7年で6度の盗塁王は22日、沖縄・浦添でヤクルト戦とのオープン戦に1番で初出場し2本の内野安打を記録した。初回先頭、初球を打ち遊撃右へのボテボテで一塁セーフ。5回表先頭では強い投手返しでグラブを弾き、再び一塁に生きた。いわゆる“しっかり打ちたい”だろう近本には不満の残る打撃だったかもしれない。ただ、内野安打も安打に違いない。現球団顧問の岡田彰布が監督に復帰した2023年2月4日には、いわゆる“走り打ち”の実験も行った。近本ほか中野拓夢、小幡竜平、島田海吏、植田海が“引っ張り”と“走り打ち”では一塁到達が手もとの計測で平均0秒43(距離にして2・95メートル)も早まった。優勝した昨季もチーム内野安打は111本(リーグ4位)と平凡で、近本は17本(同5位)だった。内野が土でゴロが緩む甲子園を本拠地にする阪神では武器になる。内野安打を歓迎したい。余談。この日は藤川球児(高知商)、池山隆寛(市尼崎)と市立高出身の監督同士の対戦。前日の相手も井上一樹(鹿児島商)。これはなかなか珍しい。 =敬称略= (編集委員)