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【内田雅也の追球】世界に通じる全力疾走 - スポニチ Sponichi Annex 野球
阪神・大山悠輔はいつものように全力で一塁へ駆け抜けていた。2回表先頭、三ゴロに凡退した際、やや前のめりになって駆けていた。
昔から彼は全力疾走を怠らない。この日は指名打者(DH)だったが、一塁守備に就く際もベンチから勢いよく走っている。矢野燿大(本紙評論家)が監督時代、当欄でその姿勢を書いて「ありがたい原稿だった」との言葉を頂戴したことがある。大山は<全力疾走は僕が一野球人として大事にしているポリシー>と今年1月末に出した著書『常に前へ』(ベースボール・マガジン社)に記している。なぜ全力疾走するのか。もちろん、万が一の相手のミスの時に「走っておけば」と後悔したくないからだ。金本知憲(本紙評論家)、福留孝介、鳥谷敬……と続く阪神の伝統だとも書いている。<今度は僕たちが後輩たちに伝えていかねばならない年齢、立場に来ている>と言葉ではなく姿勢で示しているのだという。さらに、トレーニングになる効果もみており、<絶対にいつか自分に返ってくる>。だから<チームのためにも自分のためにも、全力疾走を続けて損はない>。こうした大山の姿勢を知るにつけ、以前も紹介した大リーグ・ロイヤルズ一筋の大選手、ジョージ・ブレットを思う。1993年、40歳で現役を引退する前、記者から「最後の打席」について問われ「平凡なセカンドゴロを打ち、一塁で間一髪アウトになりたい」と答えた。「それが少年たちへのメッセージだからだ」。全力を尽くす尊さやあきらめない心を伝えたかったのだろう。著書『強い打球と速いボール』(ベースボール・マガジン社)には<平凡なゴロでも精一杯駆け抜ける反応や反射>を養われるという。<ベースボールの動きは、頭で考えながら行うものではない。反応や反射の組み合わせが勝利に貢献するプレーになる>。大リーグ通算3154安打、米野球殿堂入りのスター選手と大山の考えはほぼ一致している。この日、ワールド・ベースボール・クラシック(WBC)準々決勝で日本が敗れたベネズエラの選手たちは懸命に、そしてどこか爽快に駆け回っていた。全力疾走は勝利に貢献する力があるのだ。それは世界に通じている。 =敬称略= (編集委員)