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【内田雅也の追球】明暗の無死一塁、5番 - スポニチ Sponichi Annex 野球
勝敗を分けたのは6回表裏の攻防ではなかったか。それも同じ無死一塁、5番打者の打撃が明暗を描いていた。
つまり、阪神からみれば、陰のヒーローはつなぎの打撃で好機を拡大した大山悠輔である。6回表、才木浩人が筒香嘉智に本塁打を浴び1点差に迫られた。さらに内野安打で無死一塁と同点の走者が出ていた。5番に入る山本祐大は1ボールから外角低めスライダーを引っ張り三ゴロ併殺打。2死無走者となり、反撃ムードはしぼんだ。山本は昨季、才木に対し11打数4安打、打率3割6分4厘と打っていた。この夜も左翼線二塁打にライナー性の中飛。あの打席は力んだのだろう。才木―坂本誠志郎のバッテリー最大のピンチだったが、山本の打ち気を利用した配球、制球は見事だったと言える。阪神はその裏無死一塁で大山。2番手の左腕・坂本裕哉の低めチェンジアップを左翼線にライナーで運んだ。そのスイングや姿勢から恐らく意識は中堅から右方向にあった。矢野燿大(本紙評論家)も指摘している。併殺打を避ける打撃である。引っ張りに出ていれば、あの低く沈む球では三ゴロが転がっていた。二塁打で無死二、三塁と好機が広がり、続く高寺望夢の犠飛など、貴重な追加点につながった。<野球には流れがあります。流れを敏感に感じ取る能力は本当に大事です>と大山は今年1月末に出した著書『常に前へ』(ベースボール・マガジン社)に記した。<最近の僕は流れや場面を考えながら、「よしっ、チャンスだ!」という気持ちと「打てなかったらどうしよう」という怖さを互いに半々ぐらい持っているイメージです>。NPB通算最多3085安打の張本勲(本紙評論家)は「がむしゃらさは必要不可欠だが、その中にも冷静さが必要、欲望60%、無欲40%の割合で打っていた」と話していた。幾度も書いてきた「心は熱く、頭は冷静に」の境地と言える。連覇に挑むシーズンである。試合前、チャンピオンリング贈呈などセレモニーもあった本拠地開幕戦だった。金色のチャンピオンユニホームに恥じない試合だった。2007年4月スタートの当欄はきょうから20年目に入る。タイトルの「野球を追い求める」とは何か。いま一度、姿勢を正して臨みたい。=敬称略= (編集委員)