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【内田雅也の追球】報われた「粘り強さ」 - スポニチ Sponichi Annex 野球
阪神・村上頌樹の本領が見えたのは1点を失うことになる6回裏の投球である。あのピンチを最少失点でしのぐ投球こそ球界を代表する投手たらしめている。
2―0で迎えたこの回、1死から安打と四球で一、二塁のピンチ。迎えた中村奨成に実に12球を費やし、苦しんだ。投球を書きだしてみる。●●○○FFF●FFF○(○=見逃し、●=ボール、F=ファウル)慎重に入って2ボールとなったが、外角低めで2ストライクを取った。追い込んでから3連続ファウルで粘られ、さらにフルカウントになってから再び3連続ファウルされた。それでも表情を変えず、呼吸を整えて最後は低めカットボールで見逃し三振に切った。根負けして四球を与えたり、甘くいって痛打を浴びていれば、ピンチは広がり、複数失点していたかもしれない。続く小園海斗から低めツーシームを左前適時打されたが、佐々木泰を空振り三振に取って1失点でとどめた。同点は許さず、リードを保ったのである。野球に人生を投影する米作家、トマス・ボスウェルは『人生はワールド・シリーズ』(東京書籍)で書いている。<粘り強さは必ず報われ、逆に手を抜けば、容赦なく叩きつぶされる、という世界なのだ>。同書に1950―60年代、ドジャース黄金期の大投手、サンディ・コーファックスのコメントがある。「ピッチングに必要なのは心の平静だ。投球動作にはいるには、深い深い集中の境地に自分を追い込まなければならない」村上がピンチのマウンドで静かに呼吸し、打者を見据えていたのはこの「心の平静」「集中の境地」にある表れだろう。6回裏を1失点でしのいだことが7回表の追加点につながった。この回先頭打者として打席に立った村上は自ら左前打を放った。四球の無死一、二塁、打者は中村奨と同じ2番を打つ中野拓夢だった。同じように8球粘り、フルカウントからしぶとく遊撃内野安打として、無死満塁と好機を広げた。直後に森下翔太が中前2点打を放った。7回1失点の村上には今季初勝利がついた。村上の粘りと中野の粘り。苦しくとも辛抱強く投げ、打てば、活路は開ける。やはり、粘り強さは必ず報われる。それが、人生にも通じる野球の本質である。 =敬称略=(編集委員)