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【内田雅也の追球】レジリエンスの「1敗」 - スポニチ Sponichi Annex 野球
9回裏の好機を阪神・早川太貴はベンチ最前列で祈るようにして見ていた。自身が登板し、逆転を許した試合だった。ただ、祈りは届かず、チームは敗れた。
早川が登板したのは6回表。2―1と1点リードで先発イーストン・ルーカスの後を継いだ。先頭打者に四球を与えたとき、捕手・坂本誠志郎は頭を指さし「切り替えろ」と励ましていた。2死一塁まで踏ん張ったが、その後はゴロが続けざまに安打コースに転がって失点。同点を許し、さらに勝ち越し二塁打を浴びたのだった。本来の投球ではなかった。逆転を許した直後の打者、伊藤琉偉には外角低めへ、指にかかった速球がいった。この夜29球目にして初めて早川らしい球がいった。続く30球目も外角低め速球が光っていた。だからツーシームもよく効いていた。開き直れたのだろう。それまでは1点リードの中盤という緊迫場面で緊張していたか。今季過去3試合の登板はリードの序盤3回とビハインドの展開だった。この夜の登板は酷だったろうか。いや、通らねばならない関門だったに違いない。これも経験である。起用した監督・藤川球児は「まだ新しい選手ですのでね。いろんな経験をして、また次、強い気持ちでいってくれれば」と話した。これで落ち込んでいてはこの勝負の世界では生きていけない。再起に期待したい。レジリエンスという心理学用語がある。逆境から立ち直る力のことで「精神的回復力」「逆境力」などと訳される。失敗にもくじけない、強く、しなやかな心である。北海道の道立大麻高から国立の小樽商科大を経て、北広島市役所に就職。社会人クラブチーム・ウィン北広島からくふうハヤテを経て、育成ドラフト3位で昨年、阪神に入団した。育成から支配下を勝ち取り1軍デビューも初勝利も手にした。まさに地道な努力ではい上がってきた、自らの経験や球歴が支えになる。野球の神様は失敗や敗戦から学べと言う。早川もよく知っているだろう。この夜記録されたプロ初黒星の「1敗」を大事にしたい。それに、この夜の敗戦は早川だけの責任ではもちろんない。1回裏の2点だけで勝とうというのは虫が良すぎる。追加点を奪えなかった打線の奮起がいる。チームとしても教訓にしたい「1敗」となった。 =敬称略= (編集委員)