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【内田雅也の追球】「飛ぶ」感覚への対処 - スポニチ Sponichi Annex 野球
前夜の巨人・大城卓三の一撃には驚いた。8回表2死、阪神ダウリ・モレッタの外角高め直球を引っ張った同点本塁打である。左打者が甲子園球場右中間席にライナーで放り込む当たりは――佐藤輝明を除き――なかなかお目にかかれない。浜風が吹く逆風だった。
大城も「まさか入るとは思わなかった」と話したそうだ。「まさか」は開幕戦(3月27日・東京ドーム)からあった。村上頌樹がトレイ・キャベッジに浴びた初回先頭打者本塁打だ。ホークアイのトラッキングデータがわかるアプリ「NPB+」によると、打球速度151キロで右翼席まで111メートル飛んでいた。投手たちから「150キロそこそこでホームランになるとは……」との声を聞いた。通常160キロ以上が本塁打になる速度なのだという。監督・藤川球児も開幕3連戦を終え「どの球場も打球が少し遠くに飛んでいるような雰囲気もある」と話した。「野球の景色が今季、また少し違うかもしれない」開幕当初からあった「ボールが飛ぶ」との印象や感覚が強くなっている。実際、昨季よりも本塁打は増えている。それでもNPBによると、ボールの管理は厳格に行われており、反発係数などに変わりはない。ただし、問題は「ボールがよく飛ぶ」と感じている選手たちの心である。打者は比較的楽な気持ちで打席に入れる。監督として阪急、近鉄を球団初優勝に導いた西本幸雄は練習で内々に「飛ぶボール」を使い、選手たちの気分を高めた。今の統一球ではなく、複数の使用球があった時代の話である。野球では繊細な心理の変化が影響を及ぼす。近本光司が盗塁の決断をする際、投球タイムが1・1秒台だと「難しい」、1・2秒台だと「走れる」となる、と著書『僕は白と黒の間で生きている。』(幻冬舎)に記している。だが盗塁した後に確認すると1・19秒や1・15秒だったこともあった。「気持ちよくスタートを切れれば成功するんだ!!」と気づいた。問題は感覚や気分なのだ。反対に阪神自慢の投手陣の被本塁打は16試合で14本と目下、リーグ最多だ。昨季は143試合で同最少の53本だった。13%ほど増えている。気分は悪いが、本塁打を怖がり縮こまっては持ち味を失う。「ボールが飛ぶ」感覚への対処は打者と投手で換えることである。 =敬称略=(編集委員)