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【内田雅也の追球】0・1秒差の試練 - スポニチ Sponichi Annex 野球
決勝点は間一髪の勝負で奪われた。2―2同点の7回裏、2死二塁。牧原大成のゴロが一、二塁間を抜けた。二塁走者・野村勇が三塁を回り、本塁に突入する。佐藤輝明は前進して本塁にワンバウンドの好送球、坂本誠志郎がタッチにいく。だが、わずかに野村の左手が本塁を払っていた。
佐藤輝は前進から捕球、送球までよどみがなかった。野村の走塁が上回っていたのだろう。1歩目のスタートの良さ、三塁を蹴った際もほとんどファウル地域に膨らんでいなかった。ヘッドスライディングも坂本のタッチの下をくぐっていた。手もとのストップウオッチで計ると、牧原のインパクトの瞬間から野村の左手が本塁を払うまで6秒52だった。特に俊足というわけではない野村だが、走塁技術を示すタイムと言えるだろう。間一髪が勝敗を分け、阪神はソフトバンクに3連敗となった。昨年の日本シリーズで敗れた相手への雪辱を誓っていたが、返り討ちにあった。「各選手それぞれパワーもあり、しっかり振れるし……」と敗戦後、監督・藤川球児は話した。「最後のセカンドから戻ってきた走塁のレベルの高さ」と相手の強さを認めるしかなかった。「佐藤も素晴らしいバックホームで、坂本も素晴らしいタッチだったけれど、ああいう一つのプレーのレベルの高さを感じた」間一髪。この日なら0・1秒の差を詰めなくてはいけない。担当の外野守備兼走塁チーフコーチ・筒井壮は「結果セーフになっているんですから、あれで良かったとは言えないでしょう」と答えた。同点の終盤。外野は前進守備を敷いていた。右翼はやや深かったように見えたが「いや、そんなことはありません」と言った。日本シリーズでは甲子園で1点差3連敗。この夜の1点差敗戦はまたも阪神に試練を与えた。藤川は「悔しいですけど、学びに変えてタイガース全体として強くならなきゃな、というふうに思いますね」と言った。相手の監督・小久保裕紀は苦しい時に読んだ、経営コンサルタント・舩井幸雄の著書『エヴァへの道』にあった言葉を胸に刻んでいる。月刊『致知』で明かしていた。「人生に起こることはすべて必然で必要だ。しかもベストのタイミングで訪れている」阪神も苦しい時だ。必然、必要な試練だと受けいれ、前を向かねばならない。 =敬称略= (編集委員)