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【内田雅也の追球】「不完全」な「28」の魅力 - スポニチ Sponichi Annex 野球
「28」は完全数である。自分以外のすべての約数を足した数が自分になる数をいう。28=1+2+4+7+14。映画にもなった小川洋子の小説『博士の愛した数式』(新潮社)で知った。数学者の博士がこよなく愛する、阪神在籍当時の江夏豊の背番号なのだ。
今朝丸裕喜はその「28」を背負う。同じ兵庫県出身の快速球投手だ。先発・大竹耕太郎が3回表に長短6安打を浴び、5失点で降板となった。雨で登板が流れ「中15日」と間隔が空いた。調整は難しかったろう。ただ、この早期降板、大差ビハインドの展開だからこそ、今朝丸の1軍初登板が巡ってきた。6月19日に1軍昇格してから2週間、待ちに待ったデビューだった。速球にスライダー、フォークとテンポよく投げ込んだ。4、5回表と3者凡退。5回裏2死で巡ってきた打席にも立ち、6回表も続投となった。連打の1死一、三塁からの投前セーフティースクイズも落ち着いてグラブトスで本塁を許さなかった。四球で2死満塁となり、名原典彦を迎えた場面。追い込んでから坂本誠志郎の要求通り、内角速球で詰まらせ三ゴロにとった投球が光る。「素晴らしかった」と監督・藤川球児もたたえた。「ピンチも一つあったし、しのいだというのも大きな3イニング目だった」。確かに修羅場を踏むことでより成長につながるとみていた。それにしても今季、ファームで11試合に投げ3勝2敗。55投球回を上回る被安打57(うち被本塁打5)、与四球19の今朝丸が1軍では堂々の投球を見せる。これも甲子園の魔力だろうか。報徳学園時代、選抜で2年連続準優勝するなど慣れ親しんだ舞台だ。ファンの拍手と声援も力になる。プロ2年目、先月20歳になったばかりだ。完全数を背負うが、不完全なのは当然だ。その将来は誰にも分からず、そして可能性に満ちている。小説で、数学の難問を解く博士が言う。「必ず答えがあると保証された問題を解くのは、そこに見えている頂上に向かって、ガイド付きの登山道をハイキングするようなものだよ」。そして「数学の真理は、道なき道の果てに、誰にも知られずそっと潜んでいる」人生に解なし。答えのない問いこそ人生であり、そして野球なのだ。2安打貧攻での敗戦で悔しさも募るが、若武者デビューの日と覚えておきたい。 =敬称略=(編集委員)